Masuk冗談っぽくそう告げた瞬間、建物の中から「ひっ!?」という短い悲鳴が上がり、ドタバタと慌ただしい足音が響いた。……さすがに討伐したモンスターを生き返らせるなんて、俺にもできないと思うけどさ。
「お、お待ちください!! 待っていただきたい!!」
勢いよくドアが開き、中から白髪混じりの髭を蓄えた、恰幅の良い老人が飛び出してきた。その後ろからは、不安げな表情を浮かべた村人たちが恐る恐る顔を覗かせている。
「わ、私は、この村の村長です……。モンスターの殲滅をしていただいたそうで……感謝をいたします。……ですが、ほ、本当に、本当に殲滅をされたのですか?」
村長は、信じられないといった様子でユウヤを凝視した。村を覆っていたあの禍々しい黒い霧が晴れ、久方ぶりに差し込む暖かな陽光が彼らの肌を照らしている。それが何よりの証拠ではあるのだが、たった一人で現れた少年に、村を救うほどの力があるとは俄かには信じがたいのだろう。
「ええ。とりあえず、村の周りと地下にいた群れは片付けましたよ。もう山道を通っても襲われる心配はないはずです」
ユウヤが屈託のない笑みを見せると、村人たちの間に「おお……」と地響きのような、安堵と驚愕の混じった溜息が広がっていった。
ユウヤが「これ、ギルドの依頼書です」と差し出すと、村長は震える手でそれを受け取った。そこに刻まれた信じられないような討伐数と、実際に晴れ渡った空を見比べ、彼は枯れた声を絞り出すように叫んだ。
「うおぉ~~!! 助かったぞっ! 皆の衆、もう大丈夫だ!」
その声を合図に、広場には家々から村人たちが次々と溢れ出してきた。
「わぁ~!!! やったぁ~! 餓死しなくて良かった……」
「三ヶ月振りに、やっと町に帰れる……。ゴブリンやデカいモンスターは、もう現れないんだよな? な?」
涙ながらに抱き合う者、地面に膝をついて祈りを捧げる者。村中が爆発したような歓声に包まれる。その中で、荷物を背負った商人風の男が必死な形相でユウヤに詰め寄ってきた。
「本当に、現れないんだな!?」
「はい。普通の山程度には現れますけど……あの異常な群れはもういませんよ」
「でも、現れるのだな? なら護衛が必要だな……頼めないか? あんた、強いんだろ?」
男は商品を売りに来たのか、はたまた届けに来たのか、運悪く封鎖に巻き込まれて三ヶ月も足止めを食らっていたらしい。疲れ果てた顔には、一刻も早くこの山を降りたいという執念が滲んでいた。
「いや……急いで帰らないと不味いので、すみません」
ユウヤが苦笑いして断ると、男はさらに身を乗り出した。
「町に帰るのだろ? ただで馬車に乗れるのだぞ? 歩いて帰るより早く帰れるぞ! それに報酬も奮発するぞ」
「……走って帰るので問題ないです」
「走ってだと!? 馬車でも二日はかかるんだぞ、一週間は掛かるぞ!? ……はぁ、まぁいい、他の冒険者を当たるか……」
男は呆れたように肩を落とし、フラフラと村の広場へ戻っていった。どうやら、自分の脚力が馬車を遥かに凌駕しているとは夢にも思っていないようだ。
村人たちにとっては、あの巨大なオオカミ一匹でも全滅しかねない脅威だったのだろう。ユウヤは平穏を取り戻した村の空気を最後に一度だけ深く吸い込むと、村長に完了のサインをもらい、村の入り口へと向かった。
「さて……暗くなる前に、せめて山の麓までは降りたいな」
ユウヤは軽く屈伸をし、再び驚異的な速度で山道を駆け下り始めた。
「依頼完了のサインをお願いします」
「あ、はい。ありがとうございます……! 本当に、本当にありがとうございました」
村長は震える手でペンを握り、感謝の言葉と共に完了のサインを記した。ユウヤが依頼書を仕舞い、背を向けて歩き出そうとすると、後ろから村人たちが一斉に声を上げて引き止めてきた。
「待ってください、冒険者様! せめて今夜、ささやかですが宴を開かせてください!」 「そうだ、三ヶ月ぶりの自由だ! あなたは村の救世主なのですから!」
広場には活気ある声が響き、保存食や秘蔵の酒を持ち寄ろうとする村人たちの姿が見えた。香ばしい焚き火の匂いが漂い始め、彼らの純粋な感謝の気持ちが伝わってくる。
けれど、ユウヤは穏やかな笑みを浮かべて首を振った。
「気持ちは嬉しいんですけど、待たせている人がいるんです。伝言は頼みましたけど、あんまり遅くなるとミリアが心配すると思うので」
ミリアの真剣な顔や、自分を案じる眼差しが脳裏をよぎる。これ以上、彼女に余計な不安をかけたくはなかった。
「そうですか……。その方は幸せ者ですな」
村長は寂しげながらも温かい微笑みを浮かべ、ユウヤを送り出してくれた。
村を出ると、ユウヤは再び一陣の風となった。
レベルアップした身体能力を存分に使い、重力を無視するかのような足取りで山道を駆け下りる。流れる景色は飛ぶように後ろへ去り、冷たい夜風が頬を打つのが心地いい。
最短距離を駆け抜け、街の明かりが見えてくる頃には、ユウヤの心は既に愛着のある我が家へと飛んでいた。
♢帝都への旅路と予期せぬ吉報「それじゃ、帝都に向かうか……」 俺がリビングの静寂を破るようにそう告げると、向かいのソファに深く腰掛けていたシャルが、驚きと緊張がないまぜになった表情を見せた。淡いピンク色のドレスをふわりと広げ、お気に入りの場所に座る彼女は、いつもなら明るく元気な笑顔を振りまいているのだが、今はその淡いフワッとした金髪を揺らし、不安げに俺を見つめている。「て、帝都ですかぁ……?」「ん? シャルも緊張するのか?」「はい。帝都ですよ……宮殿ですよ? わたし……宮殿は苦手です」 シャルは甘えるように体を縮め、ぶるぶると小刻みに震わせた。同じ王族という立場でありながら、少しドジっ子で自由奔放な彼女にとって、他国の、それも厳格な礼式が重んじられる帝国の宮殿は、想像するだけで息が詰まる場所に違いない。そんなシャルの様子を見て、俺の隣に座っていたミリアが、不満げに頬をぷくっと膨らませた。「なんですの……その宮殿は凶悪というイメージは……そんな恐ろしい場所では、ありませんわっ」 ミリアはますます頬を膨らませ、透き通るような青い瞳を尖らせて反論した。淡い金髪が、彼女の憤りに合わせてふわりと揺れる。 ああ、なんとなく分かる気がする。それって宮殿じゃなくても同じだろう。実際、数人の王様が殺されかけてたしな……。「ユウヤ様。宮殿は、そんなに恐ろしいところではありませんからねっ!」 隣に座るミリアが、俺の腕をきゅっと抱きしめ、顔を覗き込むようにして必死に訴えかけてきた。彼女にとって、そこはただの温かな実家なのだ。 これだけ長く一緒に行動しているんだ、ミリアが大切に思っている場所がどんなところか、何となくは理解しているつもりだ。それにシャルだって、もう俺の嫁になっているんだし、俺が守るんだから安全性に問題はないだろう。 あ、でも……シャルはなぁ。
「お前! 一体何をしたんだ? 俺のファイアボールを受けて無事でいるとは……」 リーダー格の男は、宙に浮いたまま顔を引きつらせ、震える指先をこちらに向けて叫んだ。「もしかして……今のが攻撃だったのか?」 俺が心底不思議そうに問い返すと、男は屈辱に顔を赤く染め、必死に虚勢を張る。「うるさいぞ! そろそろ……師匠が来てくれる……。師匠の攻撃を受けてみれば、俺たちの凄さが嫌というほど分かるさ!」 師匠、か。このレベルの「浮いているだけ」の連中を育てた奴がどんなものか、逆に興味が湧いてくる。「どうした? 俺を待っているのか? 良い獲物でも見つけてきたのか?」 路地の奥から、低くよく通る声が響いた。現れたのは、中年の魔術師風の格好をした男だった。手にしているのは、一際大きな魔石が埋め込まれた不気味な杖。その出で立ちは確かにそれらしく見えるが、男が放つ言葉は、到底高潔な魔導士のそれではない。「……こいつが師匠と呼ばれる男か」 師匠と呼ばれるくらいだから、弟子たちよりはマシな実力があるのだろう。だが、「良い獲物」という言葉からは、彼らが日常的に通行人を襲い、略奪を繰り返している事実が透けて見える。 俺の隣で、ミリアが嫌悪感を隠そうともせず、透き通るような青い瞳を冷たく細めた。「ユウヤ様、あの方からは非常に下品な臭いがいたしますわ。このような者が街を闊歩しているなんて、教育の必要がありそうですわね」 ミリアの静かな怒りが再燃し始めるのを感じながら、俺は新しく現れた「師匠」とやらの力量を測るべく、静かに身構えた。「師匠! こいつら、俺たちの魔法が効きません! 普通の奴じゃないです!」 弟子たちが必死に訴えかけるが、その間も彼らはぷかぷかと中途半端に浮いたままだ。見れば見るほど、その姿は滑稽でしかない。浮いていると踏ん張りが利かないから、一撃受ければ木の葉のように吹っ飛ぶだろうし、何よりそのドヤ顔が…&hell
その光景を眺めていた騎士団長が、憑き物が落ちたような表情で俺に向き直った。「この騎士団はあなたのおかげで、今日を境に良い方向へ向かいそうだ。ありがとう!」 騎士団長は、今日何度目かになる深い一礼を俺に捧げた。その後、彼は生き残った団員たち全員に聞こえるように、朗々とした声で宣言した。これからは門地や階級に関わらず、等しく実力と規律によって評価し、上級貴族であっても例外は認めないと。 静まり返った戦場に、かつての腐敗した空気を切り裂くような、新しい騎士団の胎動が響いていた。♢ミリアとの遭遇 王城へ無事に帰還した後、騎士団は血相を変えて国王への報告へと向かっていった。重々しい空気の隊列を見送りながら、俺は人混みに紛れてこっそりと抜け出した。せっかく訪れた初めての街だ。このまま堅苦しい城の中に閉じこもっているなんて、俺の性分には合わない。 鼻歌混じりに城壁の出入り口へと足を向けると、そこにはなぜか、見慣れた装備に身を包んだ護衛の集団が整然と待ち構えていた。「ユウヤ様、どちらへ?」 鈴を転がすような、それでいてどこか逃げ場を許さない響きを含んだ可愛い声が鼓膜を叩く。あ……このタイミング、この声。バレたか。「あ~、当然……初めての街だし、少しばかり散策をしようと思って」 俺は冷や汗を拭いながら、努めて自然な笑顔で振り返った。「へえ~そうですか。わたしを置いて、ですか?」 武装した護衛たちの間を割って、可愛らしく頬をぷっくりと膨らませたミリアが姿を現した。腰に手を当て、ジト目で見つめてくる彼女の背後には、まるで「逃がしませんよ」と言わんばかりの威圧感が漂っている。 騎士団の精鋭たちを黙らせた俺の足取りも、彼女のこの表情の前では、たった一歩も前に進めることはできなかった。「ひどいですっ。ユウヤ様! 最近いつも置いてかれて寂しいですっ」 ミリアは上目遣いに俺を睨みながら、いっそう頬を膨らませた。その仕草には年相応の幼さと、隠しきれない独占欲が滲んでいる。「
極限まで抑えたつもりだったが、それでも俺の瞳の奥に宿る「捕食者」の光を隠すことはできなかったらしい。 副団長の顔からは一瞬で血の気が失せ、土気色へと変わった。ガチガチと歯の根が合わない音が聞こえ、彼は支えを失った人形のように、その場に腰を抜かして座り込んだ。 俺を見上げる彼の瞳は、もはや人間を見ているものではない。深淵の底から這い出してきたバケモノを正視してしまったかのように、ただ絶望的な恐怖に支配され、激しく震え続けていた。「おいおい……お前は上級貴族様なんだろ? 下級貴族でもない、ただの元平民のゴミ以下の奴の前に座り込んで、いったい何をしてるんだ? その首でも、俺に差し出す気になったのか?」 俺は、無造作に剣を鞘から引き抜いた。キィィン、と硬質な金属音が戦場に響き、その切っ先を、腰を抜かして震える副団長の鼻先へと突き立てる。剣に宿る冷徹な殺気が、男の頬をかすめる。彼は喉を鳴らし、あまりの恐怖に瞬きすら忘れたまま、ただ銀色に輝く死の象徴を凝視していた。「いえ……その、こだわりは……捨て去ります……。心を入れ替え、現場では差別なく接するようにいたします……」 副団長は、震える声で絞り出した。その瞳からは、先ほどまでの傲慢な輝きは完全に消え失せ、代わりに深い悔悟と、それ以上に強い生存本能が支配していた。「だそうだな、その方が賢明だと思うがな。なあ? 団長も聞いたろ?」 俺は剣先を突きつけたまま、横に立つ騎士団長へと視線を投げかけた。俺の放つ冷ややかな圧迫感に、歴戦の猛者であるはずの団長もわずかに頬をこわばらせ、額に一筋の汗を流している。「あ、ああ……聞いた。そろそろ剣を収めてくれないだろうか……副団長が怯えている」 騎士団長の声には、懇願に近い響きが混じっていた。俺はふん、と鼻で笑うと、吸い込まれるような滑らかさで剣を鞘に収めた。カチリ、という静かな音が戦場に響くと、張り詰めていた空気がわずかに緩む。
「へえ……。万全なら、俺に勝てるってわけだ? 面白いな、それ……」 俺は冷笑を浮かべ、男の目の前に転がっている、先ほど叩き折った剣の残骸を爪先で小突いた。♢副団長への「再教育」「そう言うと思って、治癒薬を用意してある」 俺は懐から小瓶を取り出し、男の目の前に放り投げた。乾いた音を立てて転がったそれを、男は震える手で、泥にまみれながら拾い上げる。「そ、そうか……」「その馬鹿に一つ忠告しておいてやる。上級貴族であろうが、現場に出れば下級貴族でも上官であれば、上官に従わなければ、今回の様にモンスターにボコボコにされて死ぬことになるぞ」 突き放すような俺の言葉に、男は顔を歪め、治癒薬の栓を抜こうと指先を震わせた。「ああ……あのモンスターを倒した者に戦いを挑むなんてどうかしていた……下級貴族にひどい言われようで頭に来てしまった……クソッ!! 敵と戦い死ぬのではなく、こんなことで俺は死ぬのか……」 男は呪詛を吐くように呟く。逃げ道を失い、追い詰められ、その横顔には今更ながらに自身の招いた事態の重さが影を落としている。それでも、自分が否定された屈辱だけは拭いきれないのか、瞳の奥には昏い逆恨みの色が燻っていた。 男が覚悟を決めたように治癒薬を飲み干すと、薬液が喉を通り抜ける。即効性の極上品だったそれは、瞬時にして傷口を塞ぎ、折れた骨を繋ぎ合わせ、青ざめていた肌に生気を戻していく。 数秒前まで死を待つのみだった体が、元通りに回復した。 俺は地面を蹴るようにして立ち上がる男を見据え、抜き放った剣の重みを掌に感じていた。さあ、言い訳はすべて潰した。万全の状態で、絶望を味あわせてやるとしよう。「おおお! 体が軽く、傷も……治っている!」 男は自らの両手を見つめ、信じられないといった様子で何度も握りしめた。鎧の下でひしゃげていた肋骨も
階級社会において、相手の背景を読み違えることは死を意味する。この男は今、その自覚もないまま、自ら破滅の引き金に指をかけていた。「ゴミ、ね……。そのゴミに守られないと、全滅してたのはどこのどいつだったかな」 俺はため息混じりに、わずかに魔力を解放した。足元の小石が震え、空気が重く沈み込む。向けられた剣の先が、男の恐怖を代弁するように小刻みに震え始めた。 血を吐くような怒声を上げて、中隊長と呼ばれた男が躍りかかってきた。騎士団長が顔を強張らせて制止の声を上げるが、逆上した男の耳には届かない。 俺は「収納」から一振りの木刀を取り出した。それ自体は何の変哲もない訓練用だが、表面に高密度のバリアを極薄く、強固に纏わせる。物理的な破壊耐性を限界まで引き上げた木刀は、今やどんな名剣をも粉砕する硬度を持っていた。 直後、戦場に響いたのは鋼を叩き潰す鈍い音だった。一撃、二撃。無造作に振り抜いた木刀が、男の着ていた豪華な装飾鎧を紙細工のようにひしゃげさせていく。必死に振るわれる男の剣を、俺は紙一重でかわすことすらしない。バリアに守られた木刀でそのまま剣を叩き折り、男の胴体、腕、足を容赦なく打ち据えた。 鎧は原形を留めぬほどにぐちゃぐちゃになり、中隊長だった男は、もはや悲鳴を上げる気力もなくふらふらと膝を突く。その顔面は恐怖と苦痛に歪み、先ほどの傲慢さは微塵も残っていない。 俺は手に持っていた木刀を静かに消し、代わりに冷たく光る真剣を握り直した。横たわる男の腕、その関節を狙って剣先を突き立てる。じりじりと、体重をかけて鎧の隙間を抉り、肉へと刺し込んでいった。「自分たちの無能を棚に上げて、本当のことを言われて反省もせずに腹を立て、本当のことを言ってきた者を殺そうとするなんて、責任のある立場の者のすることなのか?」 俺の静かな問いに、男は口から泡を吹きながら首を横に振る。「王国幹部が護衛をつけるような人物に、騎士団で役職に就いている奴が、護衛対象に剣を向けて殺そうとして良いのか? まあ、それはもういいか、どうせお前は死ぬんだしな……。剣を抜き、剣を向けてきた時に殺し合いを
「あっ。プレゼントした、リボン付けてくれてるんだ!? すごく似合ってるよ」 ユウヤが、彼女の髪を飾る鮮やかなリボンに気づき、素直な称賛を口にすると、彼女は弾かれたように肩を震わせた。「ひゃぃ。ありがとうございますっ……」 ニーナは裏返った声を出し、耳の付け根まで真っ赤に染めて、自身の髪飾りにそっと触れた。 ん? なんか緊張でもしている? っていうか……接客のプロで人馴れしてる受付嬢が緊張? 今のは……うん。可愛かったな。「俺に、何か用事だった?」 ユウヤが改めて尋ねると、ニーナは仕事モードに切り替えようと何度も深呼吸を繰り返し、手元の資料を広げた。「えっと……ですね。A~S級の
「面白い依頼ですか……?」 ミリアの澄んだ瞳が、さらに大きな疑問符を浮かべる。彼女にとって、今や「皇子」とも呼ばれる立場になったユウヤが、泥臭い冒険者の溜まり場に自ら足を運ぶ理由がすぐには理解できないようだった。「そうですわ! ユウヤ様、もし戦いが必要な依頼であれば、わたくしが……」 ミリアが守護欲に溢れた表情で身を乗り出そうとしたが、ユウヤはそれを苦笑いで制した。「大丈夫だって。ただの様子見だよ。それに、こういうところから世の中の動きが見えることもあるしね」 ユウヤは、慌ただしく立ち働く王城の兵士たちを背に、どこか懐かしい場所へ向かうような足取りでギルドへの道を歩き出した。背後か
ミリアが頬を膨らませてそっぽを向いたので、ユウヤは宥めるように彼女に近付き、その柔らかい頬をぷにっ♡ぷにっ♡と指で突いた。指先に伝わる弾力と温もりに癒やされているうちに、騒いでいた元貴族たちは、精鋭たちによって引き立てられ、全員連れて行かれていた。「ふぅ~……気疲れした……」 ユウヤは、緊張の糸が切れたように、元々座っていた椅子にドカッと腰掛けた。すると、少し機嫌が直ったミリアが、顔を林檎のように赤らめながら、甘えるようにユウヤの膝の上に座ってきた。ユウヤは無意識のうちに、そのまま彼女の頬をぷにぷにと触り続けていた。 そんな甘い空気が流れていた時、閉まっていた大扉が勢いよく開いた。そ
まあ……気に入られたのかな? 皇帝の事は良く知らないけど、思ったよりミリアにベッタリじゃなくて意外だったな。でも、ミリアが「黙っていて」と言うと……知ってはいたけど、本当に皇帝が素直に従っていたのには驚いたな。あの絶対的な支配者を言葉一つで御せるのは、世界広しといえど彼女くらいのものだろう。「そうですよ。他の偉い人が刑を言い渡しても、自分が思った刑を覆すことはありませんし……。家族同様だと、皆の前でお認めになられ、お父様の口で”次期皇帝”と、おっしゃいまし……。”皇子”とも、お呼びになられましたよっ♪ しかも嬉しそうでしたわ」 ミリアは、弾むような声で、愛おしそうに語ってくれた。その瞳







