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14話 依頼完了のサイン、三万体の記録を抱えての帰路

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-12-25 11:48:20

 冗談っぽくそう告げた瞬間、建物の中から「ひっ!?」という短い悲鳴が上がり、ドタバタと慌ただしい足音が響いた。……さすがに討伐したモンスターを生き返らせるなんて、俺にもできないと思うけどさ。

「お、お待ちください!! 待っていただきたい!!」

 勢いよくドアが開き、中から白髪混じりの髭を蓄えた、恰幅の良い老人が飛び出してきた。その後ろからは、不安げな表情を浮かべた村人たちが恐る恐る顔を覗かせている。

「わ、私は、この村の村長です……。モンスターの殲滅をしていただいたそうで……感謝をいたします。……ですが、ほ、本当に、本当に殲滅をされたのですか?」

 村長は、信じられないといった様子でユウヤを凝視した。村を覆っていたあの禍々しい黒い霧が晴れ、久方ぶりに差し込む暖かな陽光が彼らの肌を照らしている。それが何よりの証拠ではあるのだが、たった一人で現れた少年に、村を救うほどの力があるとは俄かには信じがたいのだろう。

「ええ。とりあえず、村の周りと地下にいた群れは片付けましたよ。もう山道を通っても襲われる心配はないはずです」

 ユウヤが屈託のない笑みを見せると、村人たちの間に「おお……」と地響きのような、安堵と驚愕の混じった溜息が広がっていった。

 ユウヤが「これ、ギルドの依頼書です」と差し出すと、村長は震える手でそれを受け取った。そこに刻まれた信じられないような討伐数と、実際に晴れ渡った空を見比べ、彼は枯れた声を絞り出すように叫んだ。

「うおぉ~~!! 助かったぞっ! 皆の衆、もう大丈夫だ!」

 その声を合図に、広場には家々から村人たちが次々と溢れ出してきた。

「わぁ~!!! やったぁ~! 餓死しなくて良かった……」

「三ヶ月振りに、やっと町に帰れる……。ゴブリンやデカいモンスターは、もう現れないんだよな? な?」

 涙ながらに抱き合う者、地面に膝をついて祈りを捧げる者。村中が爆発したような歓声に包まれる。その中で、荷物を背負った商人風の男が必死な形相でユウヤに詰め寄ってきた。

「本当に、現れないんだな!?」

「はい。普通の山程度には現れますけど……あの異常な群れはもういませんよ」

「でも、現れるのだな? なら護衛が必要だな……頼めないか? あんた、強いんだろ?」

 男は商品を売りに来たのか、はたまた届けに来たのか、運悪く封鎖に巻き込まれて三ヶ月も足止めを食らっていたらしい。疲れ果てた顔には、一刻も早くこの山を降りたいという執念が滲んでいた。

「いや……急いで帰らないと不味いので、すみません」

 ユウヤが苦笑いして断ると、男はさらに身を乗り出した。

「町に帰るのだろ? ただで馬車に乗れるのだぞ? 歩いて帰るより早く帰れるぞ! それに報酬も奮発するぞ」

「……走って帰るので問題ないです」

「走ってだと!? 馬車でも二日はかかるんだぞ、一週間は掛かるぞ!? ……はぁ、まぁいい、他の冒険者を当たるか……」

 男は呆れたように肩を落とし、フラフラと村の広場へ戻っていった。どうやら、自分の脚力が馬車を遥かに凌駕しているとは夢にも思っていないようだ。

 村人たちにとっては、あの巨大なオオカミ一匹でも全滅しかねない脅威だったのだろう。ユウヤは平穏を取り戻した村の空気を最後に一度だけ深く吸い込むと、村長に完了のサインをもらい、村の入り口へと向かった。

「さて……暗くなる前に、せめて山の麓までは降りたいな」

 ユウヤは軽く屈伸をし、再び驚異的な速度で山道を駆け下り始めた。

「依頼完了のサインをお願いします」

「あ、はい。ありがとうございます……! 本当に、本当にありがとうございました」

 村長は震える手でペンを握り、感謝の言葉と共に完了のサインを記した。ユウヤが依頼書を仕舞い、背を向けて歩き出そうとすると、後ろから村人たちが一斉に声を上げて引き止めてきた。

「待ってください、冒険者様! せめて今夜、ささやかですが宴を開かせてください!」 「そうだ、三ヶ月ぶりの自由だ! あなたは村の救世主なのですから!」

 広場には活気ある声が響き、保存食や秘蔵の酒を持ち寄ろうとする村人たちの姿が見えた。香ばしい焚き火の匂いが漂い始め、彼らの純粋な感謝の気持ちが伝わってくる。

 けれど、ユウヤは穏やかな笑みを浮かべて首を振った。

「気持ちは嬉しいんですけど、待たせている人がいるんです。伝言は頼みましたけど、あんまり遅くなるとミリアが心配すると思うので」

 ミリアの真剣な顔や、自分を案じる眼差しが脳裏をよぎる。これ以上、彼女に余計な不安をかけたくはなかった。

「そうですか……。その方は幸せ者ですな」

 村長は寂しげながらも温かい微笑みを浮かべ、ユウヤを送り出してくれた。

 村を出ると、ユウヤは再び一陣の風となった。

 レベルアップした身体能力を存分に使い、重力を無視するかのような足取りで山道を駆け下りる。流れる景色は飛ぶように後ろへ去り、冷たい夜風が頬を打つのが心地いい。

 最短距離を駆け抜け、街の明かりが見えてくる頃には、ユウヤの心は既に愛着のある我が家へと飛んでいた。

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